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2004-06-b


[もんどりうつ]

 からだが空中で一転する。とんぼ返りをする。



 言葉の意味はさておき、この『もんどり』とは一体どんな鳥なのでしょうか。




 モスと聞いてすぐさま思いつくのがモスバーガー。つまり『もんどり』とはモスバーガーに卸しているチキンということで一件落着かと思ったらそれが大間違い。

 モスバーガーの経営母体であるモスフードサービスの設立年は1972年。今年で32年目なわけですが、私たちが日常で使っている日本語の成立と比較するとあまりにも若過ぎます。『もんどりうつ』という言葉自体は決して新しいものではありませんから、『もんどり』をモスバーガーと関連付けるには無理があるといえましょう。


 となると、後は妖怪変化の類となるのですが、ここで頼りになるのが我らが妹である千影嬢。森羅万象を知り尽くした千影ならば『もんどり』の召喚も思いのまま。亞里亞と雛子の二人を伴い、自室へと消えていきます。

 闇夜に繰り広げられるは秘密の儀式。扉の向こうから聞こえてくるのはギシギシと鳴り響く床板の音。はて、何をそんなに暴れているのだろうっていうか兄やも混ぜれと意を決して踏み込んでみたらば、おむねのふたつのぽっちも露わな白い全身タイツにニワトリの被り物をした三人が踊り狂う姿に思わずもんどりうつのでした。



 亞里亞がフランスの応援をしにポルトガルへ行っている(気がする)ので今日はとても眠かったです。

 しょっちゅう亞里亞がお昼寝しているのは、我々兄やの眠気を取り込んでいるからに他ならねぇというそんな理論。亞里亞は獏(バク)の亜種ですか。バクさんのカバンには何が入っていますか。名がバクなだけに夢がいっぱい詰まっていますか。それよかなぜビーバーがアシスタントでしたか。



[昨日までのあらすじ]

 大阪から帰省した(リアル)妹がすっかり虎キチ化していた。



 今シーズンだけで既に五回は甲子園へ足を運んでいるそうで。いやぁ、大阪って本当に○○なところですね。

 おかげさまでジョージ・アリアスにかこつけて何度も亞里亞の名をリアルで呼ぶことができました。兄やと亞里亞は(基本的に)以心伝心。言わなくても通じているだろうとの思い込みが、時として重大な誤解を生み出します。だからこそ、こうして実際に口にすることが大切なのです。心の中で千遍も万遍も叫んだところで、空気を伝わる一遍の呟きには決してかないません。


 帰省中に一年分は呼ぶつもりです。






 キエフの大門。


 嘘です。ただの木です。

 が、アーチ状に伸びているだけに何やら曰くありげに感じます。20メートルはありますから、樹齢もそこそこあるでしょうし。実際には奥行きで5メートルほど離れているので異世界への門とするにはいささか不適当かもしれず。

 それでも、満月の夜に自転車でここを通り抜ける時には胸が少しざわつくものです。門の向こうで千影がおいでおいでしてないかにゃー、とか。



 不自然な巨乳(・A・)イクナイ!!


 当サイトでは妹たちの健やかな(胸の)成長を心より願っております。

 巨乳ならぬ虚乳であれば大歓迎。具体的には、衛のジュニアブラが実は千影とコンパチだったとか、それぐらい。鈴凛は土台(筋肉)がしっかりしているので上位三強ぐらいかな、とも。



 ここらで告白しますが、かつて一年ほどパン職人をしていた経験が私を巨乳嫌いにさせているのです。食パン一斤作るのにパン生地をどれだけむにゅむにゅすればいいと思ってるんですかこんちくしょうめ(ちょっとしたトラウマ)。

 フランスパンの生地を細長く伸ばして焼けばフランスパンなのに、型に入れて焼けばイギリス食パンになる不思議。亞里亞と四葉のブラもかくあってほしい(ドーバー海峡下ユーロトンネル的コンパチ論)。



 私は今、とてもむかついています。


 台風6号の進路上にあると知りながら能登半島の現地事務所へ行かせた会社、道中の暇つぶしにと買っておいた文庫本をカバンに入れ忘れたうっかり者の自分、HDDプレーヤーに充電するのを忘れて車窓を眺めるしかなかったもっとうっかり者の自分、いつ運休になるやもしれぬと予定を繰り上げて帰るつもりが特急だけを運休にさせたJR西日本、運行状況を確かめずに特急券だけを先に買ってしまって直後に払い戻しを受けにいったすごくうっかり者の自分などなど、むかつきの原因には枚挙に暇がありません。


 しかし、中でも私をむかつかせているのは、お昼に近くのスーパーで買った3個105円の特売コロッケです。箸で摘んだだけで油がにじみ出てくるなんて粗悪もいいところです。ちくしょうめ。

 くどいのはものまね師の顔だけで十分。コロッケの衣はサクサクでなきゃ。



 日の出ているうちからコンビニでソルマックを買わせたこの屈辱は生涯忘れないでしょう。駅のコンビニ、周囲は弁当を買う人しかいなかったのに。



 『赤外線』という名の猫がいい、と言われた気がするのです。



「もしもし、Dさん? ちょっとお話よろしいですか?」
「ああ、大家さんですか。家賃は銀行振り込みですよ」
「いえ、そうじゃなくて。……Dさん、困りますよ。あなたペットを飼ってるそうじゃないですか。お隣さんから鳴き声の苦情が来ましてねぇ。入居の時にも説明しましたけど、ここはペット禁止なんですよ。もちろん、わかってますよね?」
「ええ、それはもう重々承知の助ですよ。そんな私がペットなんて飼うはずないじゃないですか」
「Dさん、嘘とつくのならもう少し考えてくださいよ。ほら、今あなたの足元にいるのは何ですか? どこからどう見ても立派なトラ猫でしょう?」
「ああ、残念ですよ管理人さん。あなたの目は本当に節穴か、さもなくばすごい老眼ですよ。どこからどう見ても、これは立派な『赤外線』じゃないですか」
「あなた、何をバカなこと言ってるんです! 一体それのどこが赤外線なんですか。ただの猫でしょう? そもそも赤外線というもの目に見えない光の一種であって――」
「まあまあまあそんなこと言わずに。落ちついてください。一度この赤外線に触れてみればわかりますから。ささ、騙されたと思って両手を前に出して。ほら」
「ちょ、ちょっと何するんですか。離してくださいよ。そんな子供だましにだまされる私じゃありませんよ」
「ほぅら、いきますよ。落としますからね。離さないでくださいよ」
「あっ、ちょっ、こら。やめなさいって。……ほら、やっぱりただの猫じゃないですか」
「目を閉じればわかりますって。ささ、百聞は一見にしかず」
「目を閉じたら一見も何もないでしょうに。……こうですか?」
「そうそう、そうですよ。ほら、感じませんか? 赤外線の乗った手から温もりがじわじわーって伝わってくるでしょう?」
「お、おお。そういえばそんな気が。遠赤外線ハラマキを始めて着けたときのような暖かさがいまここに」
「そうでしょうそうでしょう。このじんわり温み感こそが赤外線の赤外線たる所以。猫の形状をしているのが何よりの証左ですよ」
「うんうん、そう言われれば確かに。猫といえばこたつ、こたつといえば赤外線」
「そうでしょうそうでしょう。ですからこれは猫などではなく、赤外線そのものなのですよ」
「うぅむ、これぞまさしく赤外線。いやいや、Dさん、これは失礼をばしました」
「いや、何をおっしゃいますやら。わかっていただけて何よりですよ。何しろどいつもこいつも私をキ○○○扱いしましてね」
「それはひどい話ですな。こんなにいい赤外線は滅多にお目に掛かれないというのに」
「ずいぶんと気にいったようですね」
「気にいるも何も。赤外線の肌触りがこんなにもいいなんて知りませんでしたよ。……おや、この細くて長いのは?」
「あ、それは尻尾に見せ掛けたスイッチですよ。軽く引っ張ると赤外線の強弱が切り替えられます」
「ほう、それはいいことを聞きました。ちょっと強めてみてもいいですか、Dさん」
「ええ、どうぞどうぞ。ただし、軽くにしてくださいね。力が入り過ぎると暴走してしまうので」
「わかりました。そっとですね、そっと――」
「にゃー」
「お、おお! Dさん、今『にゃー』と! まるで猫そのものじゃないですか」
「確認用の音声ですよ。じきにより温くなってきますから」
「うーむむ、もぞもぞとし始めましたね。手の上がすっかりと常夏ですよ。この赤外線さえあればオゾンホールが壊れようとも無問題」
「ああ、そうだ。実は赤外線の友達も飼ってるんですよ。よければお見せしましょうか」
「おお、それは是非ともお願いしたいですな。お礼に家賃を一割引しましょう。もちろん税込で」
「はは、それは何とも嬉しいお話ですね。……では、目を閉じて待っててください。いま連れてきますから」
「また目を閉じるんですか。これはまた勿体をつけますね」
「百聞は一見にしかずですよ。さあ、いきますね。ちょっと刺激的な、おもしろいヤツですよ」
「目を閉じたら一見も何もないでしょうに。……ところで、赤外線のお友達の名前は何と?」
「ああ、それはですね」

 D氏はハリネズミを掴み上げ、天地を逆にして大家の手へ落とした。

「『紫外線』っていうんですよ」



 三時のおやつにと買っておいたチョココロネを現地事務所の冷蔵庫に忘れてきてしまいました。おお、あれこそが生き甲斐だったのに。


 甘味全般を司る亞里亞にお願いすれば空間を捻じ曲げて取り寄せることも可能ですが、そのためには亞里亞のスカートの中に存在する『フランス空間』に手を入れねばなりません。しかし『フランス空間』は男子禁制で知られており、じいやが常に目を光らせています。彼女に見つかろうものなら即去勢。

 これがホントの『フレンチ宦官』つってな!



 久しぶりに2ちゃんねるなんぞ見てたら微妙に晒されててビビることこの上なし。善意(ですよね?)のレスとはいえ、おかげでいつもより三割増でぽんぽんが痛い痛いですよ。謝罪は別にいらないので、賠償として正露丸糖衣Aをください。

 書き込んだ人はあとで職員室へ来るように。先生怒らないから。



 自サイトに絶賛引き篭もり中ですが、それでもこっそりとインスパイアしたりさせたり、です……よね?(いつでも弱気)


 *


 荷物の到着をこんなにも待ち詫びたのは久しぶりです。昨晩からそわそわして眠れないでやがんの。そのくせ今朝は平日よりも早くに目覚め、うとうとまどろみながらも近付いてくるトラックのエンジン音を耳にするや飛び起きてみたりと情動不安定もいいところ。

 おにいたまを待ち侘びる雛子の気持ちって、こんな感じなんでしょうね。きっと。


 *


 ……スレがスレだけに予想されているような気が物凄くするのですが、最後のレスは僕です。
 ……はうっ!!? せ、先生、怒らないって言ったじゃナイディスカー!! ああっ! そんな……僕……ボク……せんせえ…………やめちゃ……やめちゃやだよぉ……(引越しの準備で創作どころか巡回もままならずおかしい頭がますますおかしくなったようデス)
 (藍音さん)



 そうですかそうですか、やっぱり藍音たんだったのですね。さぁ、悪い子にはおしおきしないとねぇ。んー、おやおや。先端がすっかり埋没してるじゃないですか。これじゃあ立派なオトナになれませんよ? さぁ、先生がシュッシュッってしてあげるからムキムキしましょうねー。

 って誰ですか、破廉恥行為を連想してる人は。カッターで鉛筆削りしてるだけですよ。失敬な。


 本来ならリンクを剥がした上でアク禁処分を採るところですが、あなたは実に運がいい。ようやくブツが届いたので恩赦で無罪放免でぃすの(・∀・)


 *


cover

 Orbital / Blue Album


 UKテクノ四天王の一角、15年続いたオービタルも今作で解散。とはいってもポールとフィルからなるハートフル、じゃなくてハートノル兄弟のユニットですから解散=活動停止ということもないでしょうし。


 活動期間が長いだけに音の変遷もかなりあり、初期と後期ではまるで別人。今回のBlue Albumは初期に近い感じで、Orbital(軌道)の文字通りにぐるっと一周したというところでしょうか。骨太でメロディアスなテクノ。違いのわかるあなたにオススメです。

 捨て曲のない今作ですが、中でも最後のOne Perfect Sunriseが一押し。とても素晴らすぃ。聴いているだけで幸せになれます。トランス寄りの透明感あふるる綺麗なナンバー。これが最後の最後にキテるってのは何かもう、いいなぁとしか。

 ここからPVがダウンロードできるので、まずは聴いてみられたし。何はなくとも超オススメします。私の二次創作なんかどうでもいいからー!



 さて、一応はシスプリサイトの辺境に位置するところですから『Orbitalなんぞ耳にしたこともないでぃすの』とおっしゃる方がほとんどでしょう。

 公式サイトではリリース曲のほとんどを試聴できる(audio[discog]よりDL)ので曲自体を知るのは容易ですが、数が多いので何がなにやらわけワカメ状態でしょう。

 そこでまずはこの中からThe Saintという曲を聴いてみてください。恐らく、ほとんどの人が耳馴染みだと思います。『伊東家の食卓』を見ていた人なら椅子から転げ落ちること間違いなしです。いやいや本当に。

 あとは2ndの通称Brown Albumをプッシュ。中でもHalcyon + on + onは何が何でも聴いておくべきです。テクノと括られる中でも名曲中の名曲ですので。もちろん、アルバムを買ってフルに聴き通すのがベストなのは言うまでもないことで。


 *


 今週末は軌道の上を周回し続けます。誰が何と言おうと。



 ご温情溢れる処置とデンセン先生の広いお心に感謝します。暫くは2ちゃんにカキコどころか巡回も出来ない様子なので大丈夫……じゃなくて! 海よりも深く反省いたします。

 私事ですが、今日は朝の6時から先程深夜12時過ぎまでの強行軍で、転勤先の某市に物件探しに行って参りました。無事に契約も済み、ガクブルしながら待った先生さんのお仕置きも愛の鞭で済んだようで一安心。連載を読んでほふう、と満足の溜息をついて、ステキ作品から受けるインスパイアの量に思いを馳せ、早く藍音たんもお話書きたいの! と微妙にブキミな口調で決意を新たにするのでした!
(ばさばさ……!)
 !! ああ、その……せ、先生? い、いや、その……このシスプリ同人誌の山はなにかとお尋ねになる? 引越しだと言うのに荷物を増やしてなにを考えている? どうせ数日後にはそっちに行くんだろうって?  いや、その……これは一期一会とか買わなきゃ即後悔とかそれこそインスパイアを得るためというか……ああっ! 先生!? うわそれはさすがにむr……はうっv……もう一度大反省。
 (藍音さん)



 次からは私の目の届かないスレで晒してくださいね……じゃなくって! これでもかつてはトリップ付きのコテハンとしてAA描いてた人間ですから言うほどにはビビってもないですし、書くなーとも言えませんですだ。私がMヲ兄やと知り合う切っ掛けもそこらへんでしたし(というか私が兄やのヲチ対象でした)。

 ただ、ぽんぽんが痛くなったのは紛れもない事実です。


 転勤の新居探し、大変にお疲れ様です。私も一時は他人事じゃなかったので心よりお見舞い申し上げます。バイト社員じゃなかったら間違いなく飛ばされてましたし、私。実は微妙にサイト存亡の危機でした。

 おかげさまで最近は能登半島の某市通いが始まってしまい、日付が変わる頃には頭の中がネムイネムイでいっぱいです。その代わりに移動の車中で閃くことも多数あって、先週の更新分にはそれが如実に反映されてたりも。


 同人誌の山に関してはあまり人のこと言えない(昨年の冬コミの売上がその日の内に全部シスプリ同人誌にトランスフォームした)ので、誰が笑いますやら。というか私自身がいい笑いものですよ、兄者!



 あ、おしおき忘れてましたね。それじゃ、白くてすべすべなおまたを大きくぱっくりと開いて、秘密の恥ずかしいところを大勢の人に見てもらいましょうねー。

 通知表を掲示板に貼り出しの刑で。



 やー、昨夜の世界ウルルン滞在記はリアルシスプリでしたよ。グレートブリテン島の美人十二姉妹、とオマケのお兄ちゃん。もっとも、お兄ちゃんの上には姉が三人(咲耶・千影・春歌?)がいるので全くのシスプリではないんですけどね。全員血縁ですし。

 それにしても、案の定といいますかお兄ちゃんの扱いが悲惨で部屋は屋根裏、姉三人には顎で使われ、女には手を上げられないので戦う前からケンカは敗戦。それでなくても思春期真っ只中で姉妹ゲンカは絶えないし、洗濯物の量も半端じゃない。現実はそうそう甘くないらしいです。


 だからといってプロミストアイランドでの共同生活があんなだった、というわけではないでしょうし。

 個室完備、ゆとりある共有空間、白雪の奇天烈料理に対応できうる家計などなど物質的には問題ないですし、何よりもお兄ちゃんのポジションが違います。何せ、これでもかというほどに慕われてますからね。ブリテン島のチャールズくんは例えるならば旗本の次男坊で、冷や飯食いの部屋住みのようなもの。『なんでアンタなんかがここにいるのよ』的な居住まいの悪さといいますか、『女のなかに男がひとり』とからかわれるようなバツの悪さといいますか。


 こうなると、取るべき道は二つです。あくまで個を貫き通して男らしく振舞うか、姉妹に迎合して女装少年として生きるか、です。いやいやマジで。

 シスプリのように妹たちが兄を尊重してくれている場合はいいんですが、姉妹間での結束が強まって兄の疎外感が強まれば、同化の一手段としての『女装』は十分にあり得ると思うのです。あるいは妹たちの気を自分に向かせるという意味でも。


 *


 共同生活を始めて数ヶ月。最初はよそよそしかった妹どうしも次第に仲良くなった。それはとてもいいことだと思う。
 でも、その分だけぼくの存在感が薄くなったような気がする。前は鬱陶しいぐらいにまとわりついてきたのに。妙に寂しく思う自分がいる。やっと束縛から解放されたというのに。
 お風呂へ入ろうと脱衣場に向かうと、籠の中に千影ちゃんの服があった。襟足の大きいぱりっとしたブラウスにネクタイ。
 思えば、あのときのぼくはどうかしていたのかもしれない。ぼくは千影ちゃんの服を手に取り、体に当てた。そして鏡の前に立つ。
 うん、意外に似合う。中性的なデザインだから当然といえば当然だ。
 だけど、やっぱり肩幅が違う。千影ちゃんは女の子で、ぼくは男。もっと近づきたくても、これ以上は――

「誰? そこにいるのは兄くんかい?」

 ぼくは妹の声に振りかえった。妹のブラウスを体にあてがったままで。
 千影ちゃんの息を飲む音が、やけに大きく聞こえた。

「兄くん」

 固く響く彼女の声。
 ――見られてしまった。
 ぼくは喪失感に全身をわななかせながら、ゆっくりと歩み寄る妹をただ見つめるしかなかった。


 *


 続きません。



 あれから三日が過ぎた。

 ぼくの身の上には何の変化もない。罵倒の言葉も侮蔑の視線も、何もない。
 あの夜、ぼくを見咎めた千影ちゃんがしたことといえば、ぼくの手からブラウスをひったくって臭いを嗅ぎ、洗濯機へ放り込んだだけだ。あとはそのまま、無言で立ち去った。
 そして今も、千影ちゃんは無言を貫いているらしい。覚悟を決めていただけにこの静けさは逆の意味で辛い。
 ぼくを脅すでも憐れむでもなく、普段と変わりのない千影ちゃん。リビングの片隅にじっとうずくまり、時折やってくる亞里亞ちゃんの相手をしている。何を考えているのか、ぼくにはさっぱりわからない。ぼくは兄だというのに。

 ―――

「ごちそうさまでした」

 十三人の声がダイニングに響く。ミカエルの一声が遅れて続き、皆の笑いを誘った。
 番茶をすすりながら夕食のメニューを反芻していると、ぼくの後ろに人の気配がした。ぼくが誰何するよりも早く、白い手がするっと胸元へ入り込んだ。折り畳まれた紙の感触に振り返るのも忘れ、ぼくは紙片へ目を通した。

 お風呂から上がったら、髪は完全に乾かした状態で私の書庫へ来て欲しい。
 なお、制汗スプレーはちゃんと使っておくように。

 名前は記されていないが、このかわいらしい丸文字は紛れもなく千影ちゃんの筆跡だ。外見とは掛け離れているので、当初は彼女なりのおまじないか何かと思ったほどだ。人は見掛けによらない。
 だが、それはぼくも同じだ。

 一番風呂から上がると髪をしっかり乾かし、制汗スプレーを全身に吹き付けた。
 千影ちゃんの書庫へ向かう前に、リビングをそっと覗き込む。一、二、三……十一人。全員いる。今日はサッカーの日本代表戦とかで、リビングはちょっとしたお祭り騒ぎだ。
 ぼくは喧騒を背中に、そろそろと階段を登った。

 ―――

「兄くんだね?」

 ノックする直前、中から声を掛けられた。

「それぐらい、足音でわかるよ。鍵はかかってない」

 ぼくはひとつ深呼吸をし、ゆっくりと扉を開けた。蝶番の軋む音がひどく不吉なものに聞こえる。例えば断末魔の叫びとか。――でも、誰の?
 顔を上げると、そこには黒いワンピースに身を包んだ妹の姿があった。月明かりのほかには裸電球がひとつだけで、千影ちゃんの体のほとんどは闇に紛れている。
 乱雑に積み上げられた本が、長い影を落としていた。

「来てくれると信じていたよ、兄くん」

 千影ちゃんは満足そうに微笑んだ。

「さあ、時間がない。脱いでくれ」
「ちょっ、ちょっと待ってよ」

 ぼくはたまらず声を上げる。

「脱ぐって、これから何を――」
「野暮なことを言わないでくれ。兄くんのために、私がせっかく用意したというのに」

 手を出してぼくを遮ると、その腕を壁へ向けた。
 そこに掛かっていたものに、ぼくは思わず息を飲んだ。

「亞里亞くんをここへ送り出した人は、よほどにあの子のことが心配だったらしいね。成長に合わせてサイズを変えたドレスを向こう五年分とはまったく恐れ入るよ」

 それは、亞里亞ちゃんのドレスだった。フランス人形のような、フリルとプリーツでいっぱいの青いドレス。

「でも、いくら何でもぼくには合わないよ。五年っていったって、亞里亞ちゃんはそこまで大きくならないはずだ」

 平均より多少低いとはいえ、それでも170cmはある。もちろん、皆の中では一番の長身だ。亞里亞ちゃんとの差は頭一つ分。五年はおろか、十年でも難しい。

「そう、それはまったく正しいね。亞里亞くんのために用意されたものは、もちろんそうだ」

 ――亞里亞くんのために。
 疑問を口に出す間も無く、ドレスを手にした千影ちゃんが歩み寄ってきた。さわさわとドレス地同士のこすれる音がする。

「試してごらん」

 歌うように告げると、千影ちゃんはドレスをぼくに押し付けた。
 ざわり。  すべすべと心地良いシルクの手触り。その魅惑的な重みにぼくの心が震えた。
 抗えない。ぼくは、この誘惑に抗えない。
 ぼくは内なる声に導かれるまま、ドレスを体にあてがった。
 ――ぴったりだ。
 身の丈のみならず、肩幅まで合っている。

「私が仕立て直したんだ」

 千影ちゃんが後ろ手に鍵を掛けた。
 カチャンというその音は、ぼくの心の留め金が外れた音にも聞こえた。



「でも、どうして?」

 緊張と興奮のあまり、ぼくの声は裏返ってしまった。何度も唾を飲み込む。

「それは亞里亞くんのドレスではない。サイズ的に、他の誰かのために用意されたものと考えるべきだろう」
「だろう、って……」

 千影ちゃんは扉にもたれかかり、腕組みをした。

「少なくとも、兄くんのためでないのは確かだね」

 千影ちゃんは正面に立って、ぼくの目をじっと見据えた。ぼくと千影ちゃんの身長差は頭半分しかない。
 五年後に思いを馳せるぼくの手から、千影ちゃんはドレスを取り返した。

「さ、早く脱いで」

 ぼくは半ば形式的に最後の抵抗を試みた。

「でも、いくら兄妹でも目の前で脱ぐのは……ちょっと」

 冗談だよ、と笑ってくれればまだ引き返せる。
 ぼくは密かに祈っていた。

「私は咲耶くんや四葉くんじゃない。後を向いて待っているから」
「……うん」

 ぼくの祈りは通じた。
 背徳感と安心感とが大きなうねりとなってぼくに押し寄せ、思わず腰が砕けそうになる。

「脱ぎ終わったらドレスの下から体を通すんだ。スカートを穿き終わったら呼んでくれ」

 千影ちゃんはドレスを壁に掛けると、窓際にすたすたと歩いていった。倒れていたスツールを引き起こし、手近な本を掴んで座る。

「ぐずぐずしていると夜が空けてしまうよ」

 ぼくはその言葉を合図にもぞもぞと手を動かし、パジャマのボタンを外しにかかった。
 パジャマのはためく音と、ページをめくる音とが交互に響く。
 ようやくトランクス一枚になると、壁のドレスを手にした。ぼくの心臓は今にも飛び出そうなほどに激しく鳴っている。夜陰に紛れたドレスの青が、ぼくの目を捉えて離さない。
 視界が一面の青に染まる。
 はっと我に帰ると、ぼくはドレスを胸に抱き、顔を埋めながらシルクに頬をすり寄せていた。身じろぎするたびに、さわさわと音を立てながら目の前でフリルが崩れる。
 そういえば、とぼくは思った。
 自分からみんなへ手を差し伸べたのは、いつが最後だったろうかと。
 こうして自ら抱き寄せるなんて本当に久しぶりだ。雷に怯えて泣きじゃくっていたあの日を、千影ちゃんは覚えているだろうか。ぼくの胸元を涙でべたべたに汚したあの日のことを。

 ふと、小さなしわぶきが聞こえた。声のしたほうを見ると、千影ちゃんの赤い髪が反動で揺れていた。
 ぼくは小さくため息をつくと、ドレスに体を通した。

「千影ちゃん、いいよ」

 小さく声を掛けると千影ちゃんは優雅に立ち上がり、本を開いたままでゆっくりと近寄ってきた。
 歩きながら千影ちゃんはぼくの上から下まをじっくりと眺め回し、意味深な微笑みを作った。頬がかぁっと熱くなるのを感じた。
 千影ちゃんは三歩離れたところで立ち止まる。顔には笑みを貼り付かせたままで、まだ何も言わない。どことなく頬が赤らんでみるのはぼくの気のせいだろうか。

「ねえ――」

 これからどうするの、と言いかけた口が止まった。ぼくの目は、千影ちゃんの持っている本へ釘付けになった。

「千影ちゃん、本が逆さまだよ」

 千影ちゃんは慌てて本を直すが、もう遅かった。ぼくはしっかりと見てしまったのだから。
 裸電球にもはっきりとわかるほど、千影ちゃんの顔は赤くなった。
 そのままぼくたちは、しばらく押し黙った。

 階下からは遠く潮騒のようにどよめきが聞こえる。
 壁と床板とを何枚か隔てた先でこんな痴態を晒しているなんて、誰が想像できるだろうか。兄であるこのぼくが、半分だけ女の子になってるなんて。

「千影ちゃんは、ぼくのこと……軽蔑しないの?」
「軽蔑? ……どうして、そんなことを聞くんだい?」

 今さら何を、とでも言いたげな口調だった。

「だって、まるっきり変態じゃないか。千影ちゃんの、女物の服を体にあてがっていたなんて」
「だが、今それを着ているのは他ならぬ兄くん自身の意思だ」

 きっぱりと言い切るその鋭さに、ぼくは思わず自分の肩を抱いた。
 千影ちゃんはくるりと背を向ける。

「兄くんがそんな行為に走るなんて、よほどのことがあったとしか思えないんだ。夜這いを仕掛けるでもない、洗濯物から下着を抜き取るでもない、スキンシップの名の元に破廉恥行為をするでもない。今まで数ヶ月、そんな片鱗は何一つ見せてこなかった兄くんだ。その鬱屈がこのような形で噴出したとて不自然ではないさ」

 年齢に似つかわしくないその語りぶりは、告悔者に赦しを与える聖職者のようにも感じられた。あるいは、新たな道を示し、希望を与える聖母のようにも。
 振り返った彼女の視線がぼくを穿つ。

「どうするんだい、兄くん」

 ぼくに、否も応もなかった。



 それからの千影ちゃんはとても饒舌だった。
 ぼくの体を青く塗り替えながら、最近起こった出来事を次々に語って聞かせてくれた。
 亞里亞ちゃんの寝相が悪いので、一緒に寝ている千影ちゃんが毎日のようにベッドの下へ蹴り出されているという話。
 裏庭の塀に開いた穴をくぐり抜けようとして、鈴凛ちゃんだけお尻が引っ掛かってクマのプーさんみたいになった話。
 コロッケのつまみ食いをしたしないで可憐ちゃんと四葉ちゃんとが口論になったけど、結局はミカエルが犯人だったという話。
 こんなにも舌が滑らかな彼女を見るのは、たぶんこれが初めてだと思う。いつもは一言二言をぽつりと呟くだけだから。
 そして、今聞かせてくれた話もぼくは初めてだった。それが、とても悲しかった。
 みんなはぼくを慕ってくれる。それはとても嬉しい。
 だけど、ぼくの望みはそんなことじゃない。
 ぼくはみんなと一緒になりたいだけなんだ。
 ぼくは、同じになりたい。

「みんな、兄くんに気を使っているんだよ」

 ぼくの心を読んだかのように、千影ちゃんが耳元で囁いた。

「だって、格好悪いじゃないか。兄妹だからこそ、兄くんにはいい所だけを見せておきたいのさ。兄くんはもう少し乙女心を理解するべきだね」
「――乙女心」

 ぼくがそう繰り返すと、千影ちゃんは腰に編み込まれた紐をぎゅっと締め上げて声を奪う。

「……冗談だよ」

 千影ちゃんは素早く紐を結び上げると、ぼくのうなじに指を這わせながら寂しげに微笑んだ。

「兄くんはとてもよくわかっていると思う。……そう、私とはちょうど反対だね。私は私以外の誰にもなりたくないというのに」
「……千影ちゃん?」

 しゅるりと音がして、ぼくの首にリボンが掛け回された。

「さあ、着替えは終わりだ」

 千影ちゃんは一歩下がり、頭を後に反らせてぼくの全身を眺めた。

「あの、鏡は?」
「まだだ。まだ早いよ」

 ぴしゃりと千影ちゃんが言う。
 ぼくは黙った。いや、黙るしかなかった。抗おうという気持ちは、ぼくのどこにもなくなっていた。

「パニエを穿かせられればよかったのだけどね。おかげでスカートが少し物足りない。胸にもボリュームがないし」

 胸、という言葉がやけに重くのしかかる。ぼくは俯いてしまった。
 顔を赤らめながら、自分の胸元をそっとまさぐる。そこにあるのは大きな隙間だ。簡単に埋めることのできない大きな空洞がそこにある。
 当たり前のことなのに、今はそれがとても悔しくて、そして恥ずかしい。

「パッドを用意すればよかったね」

 その声は、少し呆れているようにも聞こえた。

「兄くんがそこまで気にするとは思わなかったんだ」

 千影ちゃんは懐から銀色の円筒を取り出し、ぼくの目の前に掲げてみせた。それは指先ほどの大きさがある。どくん、とぼくの胸が高鳴った。
 やがて露わになったルージュに、ぼくの唇から熱い吐息が漏れ出る。暗がりでぬめやかに光る真紅の先端が、ぼくを魅了した。
 不意に視界が歪む。ぼくは何度もまばたきをして必死に我慢した。

「間接キスだよ、兄くん」

 足を組み替えながら、清楚な笑顔をぼくに向ける。
 ぼくもつられて微笑んだ。
 でも、きっと誤解したと思う。なぜならぼくは、これから始まる行為に微笑んでいたのだから。

「兄くん、そんなに笑っていたらうまく引けないよ」

 千影ちゃんは形の眉を顰めると、ぼくの顎を押さえて唇を陵辱し始めた。腕がひとつ動くたびに、唇がずっしりと重くなる。
 ふと見ると、千影ちゃんの手はたくさんの絆創膏で彩られていた。
 ぼくの口は開かない。開きたくても、開けない。

「本当は眉毛も手入れしたいが、私の手にはいささか余るんだ。……咲耶くんを呼ぼうか?」

 びくっと肩が震えた。
 ぼくの怯えように、千影ちゃんが声もなく笑う。

「すまない。兄くんがそんなに怖がるとは思わなかったよ」

 謝っているのは口だけだ。ぼくはちょっとだけ睨む。

「でも、もっと私たちに近づくには避けて通れない道だ」

 笑いの余韻を残しながら言うと、傍らの円筒形の箱から白いレースの帽子を取り出した。頭全体をすっぽりと覆い隠し、顔の輪郭をなぞるように立っている幅広のつば。アメリカ開拓時代を題材にした海外ドラマで見たことがある。
 ぼくの視線に気付いたのか、「ボンネットだよ」と千影ちゃんが教えてくれた。
 千影ちゃんはブラシでぼくの前髪を手早く下ろすと、ボンネットをすっぽりと被せた。

「鏡はとても恐ろしい。いきなり全てを見るのは、よくないよ」

 キャスターの転がる音が続き、布で覆われた姿見がぼくの目の前に運ばれた。

「魔法を解きたくなければ、下から少しずつ見上げるんだ。前髪の隙間からそっとね」

 ぼくは無言で頷いた。
 それを合図に、幕が音もなく上がった。
 ぼくの目に入ったものは、一体のフランス人形だった。
 薄闇に浮かび上がるドレスの青とフリルの白。赤い唇は驚きに小さく開き、目元はボンネットのつばに隠れて暗い。
 それは、ぼくの知っているぼくではなかった。ぼく以外の誰かだった。
 しかしそれは、紛れもなくぼく自身だった。
 ぼくが右手でスカートを摘み上げると、彼女が左手で真似をした。
 ぼくが左手を差し伸べると、彼女が右手で迎えた。
 ぼくが小首を傾げると、彼女はぼくに問い掛けた。
 ――あなたはわたし。いつになったらわかってくれるの?

「これは、困ったね。迂闊に兄くんとは呼べないな」

 前髪越しに眺める千影ちゃんの顔は、本当に困っているように見えた。

「うん、しかし……そうだな。ここはやはり、姉さんと呼ぶしかないのだろうな」

 その言葉に、心の枷が砕け散った。
 胸の鼓動で、何も聞こえなくなった。
 とめどなく涙があふれ、ぼくはその場にくず折れた。
 たたっと駆け寄る足音がした。

「そんな、私……ごめんなさい。私、こんな、ひどいこと……兄くん」

 ぼくは俯いたままでかぶりを振った。

「兄くん」

 わたしはかぶりを振り続けた。

「……姉さん」

 わたしはようやく頷いた。



Fin