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雨雲がどんよりと漂う夕闇の中、家路を辿る春歌の足取りは重かった。
肩に掛けた鞄がいつになく辛いのは、何もその重さばかりが原因ではない。
就職し、社会へ出てから早数ヶ月。意に染まない受付嬢という仕事と環境が、春歌の心をじりじりと苛みつつあった。靴のヒールが磨耗し、少しずつ低くなって行くように。
気がつくと下ばかりを向いて歩いている。つま先に、足の形に合わせて浮き上がった皺がひどく目立つ。思わず春歌は目尻に手をやっていた。
遣り甲斐を得られる仕事であれば、肉体的な負担はさておいてここまでの徒労感は覚えないはずだ。椅子に座り、笑顔を貼り付かせ、何度も頭を下げては来客の応対に明け暮れる毎日。帰国子女としての語学力が必要とされることはあっても、大和撫子として重ねた修練の数々はもはや無用に近かった。
春歌には、それがたまらなく苦痛だった。
眉間に皺を寄せて立ち止まった春歌は、ポニーテールを左右に振るいながらぐるりと首を回す。首筋から肩に掛けて手を這わせると、筋肉が固く強張っているのがわかる。肩こりとは中学時代から付き合いだった。支えるだけの筋肉があれば楽になるとはいっても、春歌のそれは既に、鍛えればどうにかなるというレベルを超えていた。
そう、重いのは足取りだけではなかった。
一歩踏み出す度にゆっさりと重く震える脂肪の塊。前へ大きくせり出した胸には白いブラウスが食い込み、ブラのレース模様がくっきりと浮かび上がっている。時には頂上の尖りすらも見えてしまうほどだ。
春歌は巨乳を超えた爆乳の持ち主だった。
その体積と重量を支えるブラは海外から取り寄せる以外になく、会社の制服も胸だけが規格外で特注扱い。普段使いの服にしても、ボタンの弾け飛ばない日はないといってもいいぐらいで痛みも激しい。一人暮らしの身だというのに、家賃以上に衣料費が掛かるのだ。和装で暮らしたほうがよほど安上がりといえる。
クォーターならではの整った容貌、恵まれた上背とあいまって、春歌はどこへ行っても浮いた存在だった。同性からは羨望の眼差し、そして、異性からは好奇の目線。
それでも、学生時代は今と比べて多少はマシだった。
春歌の普段の苦労を知っているだけに同性の級友らは同情的だったし、言い寄る男子学生もそんなに多くはなかったのだ。規格外の胸もさることながら、その胸を目当てに這い寄った痴漢を一捻りで返り討ちにしたという武勇伝も原因の一つだった。加えて二十歳を過ぎてもなおブラコンとくれば、骨折り損は目に見えていた。絵に描いた餅を――それも、一抱えもある特大の餅を――求めるほど、彼らはストイックではなかったのだ。
だが、今は違う。
男も女も誰彼を問わず、ぎらぎらと光る目を春歌の胸へ注ぐ。
なぜなら、この大人の世界では、それが文字通りの武器に他ならなかったからだ。
ただのごっこ遊びに過ぎなかった恋愛が、今後の人生を賭けたサバイバルゲームへと変貌している。そう思い知らされたのは、更衣室で頻々と交わされる恋愛話を耳にしてからだ。判断基準はただ将来性のみ。いかにして優秀な『運び手』の気を惹いて自分のモノにするか。つまりは、それだけだった。
そこへ来ると春歌はあまりにも未熟だった。春歌が求めていたのはただ一人。言い寄る男性社員を次々と袖にし、その数が二桁へ達しようかという頃、三十路を過ぎたお局さまが呆れ顔でこう言ったものだ。
「そのご立派なものの上に玉の輿でも乗せるつもり?」
兄が好きだとは、とても言い出せなかった。
「――ああ、兄君さま」
春歌は足を止め、太いため息と共に自分の身体を抱きすくめた。交差した腕の隙間に脂肪がやわらかく食い込み、むにゅっとはみ出る。
育ち過ぎた自分の身体が嫌だった。
皆が言う。それだけの大きさならよりどりみどり。これで落ちない男はいない、とも。
だが、兄は兄であり続けた。
兄はいつでも、真っ直ぐに春歌の顔を見つめる。目のやり場に困ったはにかみ笑いこそしすれ、全身を舐め回すように観察しながら浮かべる下卑た笑みとは全くの無縁だった。
見てもらいたい人に見てもらえず、見てもらいたくない人にばかり見られる。皮肉といえば皮肉だった。
「兄君さまになら、このワタクシ――」
続く言葉を飲み込み、春歌は再び歩き始める。思い浮かんだ兄の顔に、過ぎた後悔の念が募る。
あれは悔やんでも悔やみきれない、実に愚かな振る舞いだった。
ちょうど今ぐらいの空色、ある土曜の夕暮れ。
春歌のマンションに、兄が一人でふらっと訪ねて来た。驚く春歌に対し、一人暮らしにはもう慣れた? と、穏やかに笑う兄。春歌が腕を取り、部屋へ上がらせたのは言うまでもない。
久しぶりに振舞う手料理にアルコールも加わり、和やかで楽しい空気が狭いワンルームを満たした。
春歌の胸へ、切なさにも似た感情が訪れたのはそのときだった。
やや赤らんだ兄の顔には髭の剃り跡がうっすらと見える。グラスを持つ手は血管がごつごつと浮き出て、積もる話に喋り続けた声は潰れて低い。喉仏が大きく、たくましかった。
兄はもう、立派な大人の男性だった。
四葉から時折もたらされる『兄チャマ情報』によると、未だに浮いた話の一つもないという。だが、それも時間の問題だ。いつかはきっと結婚し、こうやって二人で食卓を囲むのだろう――そう、自分以外の誰かと。
その画を思い描いた刹那、春歌は兄を組み伏せていた。片手で兄の手をひねり上げて極め、残る手は股間をまさぐっていた。驚愕に歪む兄の顔を目にしたのはこれが始めてだった。
「兄君さま……どうかワタクシを、一夜限りでも……」
窒息させんとばかりに圧し掛かる乳房。その圧倒的な質感に、並の男なら即座に落ちていたはずだ。
しかし、兄はどこまでも兄だった。
「――春歌ちゃんは、疲れているんだよ」
そう静かに呟いて、春歌の縛めをゆっくりと解きにかかった。
あの夜から数ヶ月が過ぎた今も、兄の様子は何ら変わりがなかった。近況や身体の調子を尋ねることはあっても、その夜のことには触れようとしない。
あまりにも兄らしい気遣いが、春歌にはたまらなく辛かった。
「兄君さま、ワタクシは――」
そう呟きかけたうなじの毛が逆立つ。近付く気配に春歌は身を硬くした。
ひたひたと距離を詰める足音がある。表通りからは外れ、他に歩く人もない裏道。マンションは目と鼻の先だった。
春歌は珍しく逡巡していた。普段ならば迷わず返り討ちにしているところだ。だが、ふと浮かび出たあの光景が消えない。ああ、恥ずかしい。殿方を組み伏せてしまうなんて、はしたないにも程があるというもの――
至近距離、肩の後ろから若い男の声が掛かった。
「あの、すみま――」
春歌は反射的に振り返った。
遠心力によってゴムまりのように変形し、ひしゃげる胸。引き千切られるような鈍痛に、何かのぶつかる感覚が加わった。
「ひぐぅっ!」
「うわっ!」
二つの悲鳴が重なったと思うや、黒ずくめの人影が勢いよく吹っ飛ぶ。何度もたたらを踏み、離れた地面によろよろと崩れ落ちた。
「だ、大丈夫ですか?」
誰何するよりも先に、春歌は慌てて駆け寄った。
黒は詰襟の黒だった。見ると小柄で線が細く、どこか頼りない感じ。今のはまさか、自分の胸で突き飛ばしてしまったのでは――重ねた醜態に耳まで赤くしながら、春歌は少年の傍らにしゃがみ込んだ。
「申し訳ありません。さぁ、ワタクシの手に……」
「あ……すみません……」
呻き声を上げながら、少年は伏せた身体を春歌へ向けた。
少年の顔を見た瞬間、春歌は思わず息を飲んだ。
「あ、兄君さまっ……!」
薄暗がりの中で見た彼の顔は、兄と瓜二つだった。
正確には今の兄ではない。ずっと昔の、初めて逢ったあの頃とよく似ている。ばらばらに乱れた襟足といい、目を覆い隠すような前髪といい、これはまるで――
「お、お怪我はありませんか? 兄君さま」
「あにぎみ、さま……?」
怪訝そうに歪んだ顔がみるみる赤くなり、パッと背けられた。
不審に思った春歌は、胸元が妙に涼しいのを感じた。見ると、ブラウスのボタンがいくつか弾け飛んでいる。春歌は急いで鞄を抱き寄せた。
「大丈夫ですか? どこか、お怪我などは?」
「い、いえ……お姉さんのほうこそ、大丈夫……ですか?」
少年は横目にちらちらと見ながら、春歌の様子を窺う。
「ごめんなさいね。まさか、すぐ後ろにあなたがいたなんて」
「ぼ、ぼくのほうこそ、その、すぐ後ろに立ってしまって……」
「でも、一体どうして」
「あっ! あの、これ、落し物……」
少年は、震える手でハンカチを差し出そうとした。が、その顔が苦痛に歪められる。
「まあ、お怪我を?」
少年は眉を顰めながら首を横に振る。
「ちょっとひねっただけ、だと思います」
「でしたら、きっと捻挫ですわね」
ごめんなさいね、と何度となく繰り返しながら、春歌はやんわりと少年の手を取る。少年が後ずさりするように身じろぎした。
「あっ、あの、本当に大丈夫……ですから」
「いいえ、よくありませんわ。捻挫というものは、最初の手当てを間違えるととても長引くんです。ですからここは、ワタクシが責任を持って――」
「お、お姉さん……」
上擦った声で我に返ると、二人の身体はぴったりとくっつき、春歌の胸が少年の目線を塞ぐように覆っていた。少年は目のやり場を失い、赤く染まった顔をあらぬ方へ向けている。
思いがけない初々しい反応に、春歌は急に胸が苦しくなるのを感じた。
「――あの、もしよければ、ワタクシの部屋に上がっていかれませんか?」
「えっ?」
「すぐそこですし、手当てをしなければ」
「で、でも――」
ふと言い澱む少年の鼻に、ひとつ水滴が落ちる。次の瞬間、バケツの底が抜けたような勢いで雨が降り始めた。
呆けたように天を仰ぐ少年の腕を、春歌が無理やりに引き上げた。
「さあ、お早く! 風邪を引いてしまいますわ」
武道で鍛えた春歌の大喝に、少年は反射的に立ち上がる。
少年は思っていたよりも小柄だった。春歌よりも頭半分は低い。
まごついたように立ち尽くす少年の身体を、ぎゅっと抱え込む春歌。少年が戸惑いの声を上げた。
「そっ、そんなことしなくたって――」
頭に手を回して胸元へ引き寄せると、彼は急に黙り込んで大人しくなる。
男の汗の臭いが春歌の鼻をくすぐった。
*
蛍光灯の下で見る少年は、それほど兄に似ていなかった。それでも、手当ての際に見せてくれた恥じらいの表情は、どこか十代の頃の兄を彷彿とさせた。
「あの、本当にごめんなさい。何から何まで、こんなに」
手首に包帯を巻いた少年がベッドに腰掛けたままでぺこりと頭を下げた。学ランはハンガーに吊り下がり、今はTシャツ一枚の上にバスタオルを羽織っている。
「いいえ、そんな。ワタクシのほうこそ、強引に引っ張り込んでしまって」
ユニットバスで着替える春歌が顔だけを覗かせると、少年はまた行儀よく頭を下げた。表情はまだ硬いものの、道端でのおどおどした感じはいくらか消え失せている。
「落ち着いてらっしゃるのね。普通は、もう少しお部屋を見回したりするものですけど」
歩み寄る春歌の姿に、少年が慌ててそっぽを向いた。今にもはちきれそうな水色のブラウスはともかく、下はプリーツのミニスカート。彼の目の高さなら下着の色が見えていてもおかしくない。ブラウスにしても一番上のボタンが止まらず、タイでどうにか隠しているといった有様なのだ。折り重なったプリーツから覗く太ももは白くむっちりとし、春歌が内股を擦り合わせて歩くたびにふるふると震える。
今着ているのは高校時代の制服だった。
卒業してから随分経ったで今でも着られるか不安だったが、袖を通してみると意外とどうにかなるものだ。とはいえ、腰回りを除いてはぎゅうぎゅうのぱつんぱつんなのだが。
それにしても、スカートがこんなに短くなるとは思わなかった。いつも胸ばかり気にしていたせいで、お尻の大きくなった自覚がなかったのはちょっとした誤算だった。これでは品位に欠けたコスプレ紛いだ。せっかく兄と――いや、この少年と合わせようとしたのに。
「あ、その……こういうの、慣れてるので」
訥々と語る一方で、横目に何度も覗き見る少年。胸に、太ももに、スカートで覆い隠された聖域に。遠慮を知らぬ大人とは違い、少年の視線はどこまでも慎ましかった。
春歌にはその仕草がたまらなく可愛らしく、好ましかった。
「慣れているって、女の子のお部屋に?」
少年がはにかみながら頷く。
「まあ、そうなのですか。なかなかのおませさんですわね」
「ち、違います!」
春歌の言葉に少年は思わず立ち上がった。
「そんなのじゃないんです。ぼくだってそんなの慣れたくないけど、でも、どうしていいかわからなくて」
「――何か、訳ありなのですね」
春歌は立ったままの少年に寄り添いながら、
「もしよろしければ、ワタクシに聞かせていただけませんか? 異性の悩みでしたら、少しは力になれるかもしれませんし」
「でも、これ以上迷惑を掛けたら……。それに、すごくバカバカしい話だし……」
少年の肩に手を回した春歌は、座るように促しながら首を横に振った。
「そんなこと、子供が気にすることではありません。さあ、お姉さんに話してみて。ね?」
春歌は隣に腰掛け、下から顔を覗き込む。熱っぽく注がれる視線に観念したのか、少年はようやく重い口を開いた。
彼がぽつりぽつりと語るところによると、少年は何組もの双子の姉妹から同時に想いを寄せられているという。上は社会人から下は小学生まで。その全てが恋愛感情というわけではないが、異常な事態であることに変わりはない。
中でも、少年と年の近い双子らは日増しにモーションを強め、最近は心の休まる暇もないらしい。
「――性格は似てたり違ったりするけど、顔はぜんぜん同じだから。二人同時に好きだって言われたこともあって」
「それで、あなたは?」
「考えさせてくれ、って」
少年は俯かせた顔を左右に振る。ちらりと覗かせた精悍な表情に兄を見出し、春歌の胸がどくんと高鳴った。
「どっちかを選べなんて、できるはずないんです。だって、そうでしょう? ぼくがどっちか一人に告白したら、同じ顔の片方が笑って、もう片方が泣くんです」
「そのどちらかが、あなたの意中の人なのね?」
春歌の指摘に、少年は顔を赤く染めて狼狽した。
「で、でも、ぼくはこのまま……伝えないままで……」
「どうしてです? 想いを寄せているのでしょう? 何もなさらないなんて、そんなのずる過ぎます。卑怯ですわ」
突然感情を昂ぶらせた春歌に戸惑いながらも、少年は真っ向からキッと見返す。
「でも、ぼくが我慢すれば、みんなこれ以上不幸にならないんです! ぼくだけが幸せになったって、そんなの、意味が――」
春歌は湧き上がる感情の赴くまま、少年の唇を奪った。
欲しくてたまらない。一夜限りで構わない。兄の心の一端を、自分のこの身体に感じてみたい。
突然の暴挙に身を硬くする少年だったが、肩を抱かれ、胸を押し付けられしているうちに、やわらかな春歌へ身体を投げ出した。
「――どうして?」
長い口付けが終わると少年は呆然と呟いた。
春歌は答えず、再び唇を寄せる。いとおしげに背中をかき抱く手が、そろそろと下へ降りる。引き締まった尻を撫でさすったそのとき、少年がようやく春歌の意図に気づいた。
「ああっ! な、何をっ……?」
春歌は無言のまま、股間に片手を潜り込ませた。兄を襲ったときに比べて小さいが、熱く脈打つ欲望が確かに存在している。やわやわと握り締めて愛撫すると、少年がたまらずうめき声をあげた。性感を支配する喜びに、はしたなく舌なめずりする春歌。
「やっ、やめ……こんなの、ぼくは、ああぁっ!」
悲鳴にも似た叫びを上げると、少年は一度大きく全身をわななかせ、春歌の胸元へぐったりと崩れ落ちた。手のひらにじんわりと灼熱が広がる。
春歌は余韻に委ね切った身体をそっと押し倒し、迷わずベルトに手を掛けた。少年は潤んだ瞳で春歌を見上げ、荒い息に胸を上下させるばかり。
程なくして、白濁にねっとりと濡れた肉茎が春歌の手に転がり出た。細身の少年に似て、すべやかで華奢な幹だった。下生えはまだ薄く、余り気味の皮からは鮮やかなピンク色が顔を覗かせている。
春歌はこわれものでも扱うように、うやうやしく手に取った。
「これが殿方の、もの……」
本能の急くままに顔を寄せ、しげしげと見つめる春歌。知識としては知っていても、直に触れるのはこれが初めてだった。遠慮なく鋭敏な粘膜をなぞる指に、若いペニスが素早く反応した。
「あ、あぁっ! またぁぁ、くっ、るうぅっ!」
「――えっ?」
春歌が避ける暇もなかった。先端から迸った光がしたたかに春歌の顔を打ち、白い傷跡を残した。むせ返るような生臭さが鼻から脳天へ抜け、その衝撃に頭がくらくらする。
「すごい臭い……ですわ……」
うっとりと呟きながら。春歌は男の証に指を絡めた。火傷しそうな熱さが指の合間を這いずり回る。
射精の快感が失せた少年が、ようやく我に返った。
「ああっ、ごっ、ごめんなさい……ごめんなさい、お姉さん。ぼく、そんなつもりじゃ……」
おののく少年の声に春歌は微笑み返し、ゆるゆるとかぶりを振った。
「でも、こうしたかったのでしょう?」
「ちっ、違いますっ」
「それなら、どうしてあのとき、遠くから声を掛けなかったのですか。別にワタクシのすぐ後ろに立たずともよかったでしょう?」
「それは、お姉さんだって……。ぼくを引っ張り込んで、こっ、こんな……いやらしい、こと……」
自らの言葉に、少年の頬が赤く染まる。
春歌は笑みを深め、おもむろに少年の身体へ跨った。顔を両手で挟んでベッドに押し付けるとそのまま上体を傾げ、突き出た胸の先端を触れるか触れないかのギリギリで少年の顔に覆い被さった。
視界いっぱいに広がった重みに少年の喉仏がひくっと上下する。
「――欲しいのでしょう?」
囁きながらそっと身体を揺すり、ドームの先端で少年の顔をやわらかくなぶった。鼻の先から頬に滑り降り、顎で折り返してまた頬へ。眼の窪みに収まったところで眼球を突っつく。薄い瞼越しに眼の動揺が伝わり、ブラの内側で蕾が鋭く尖った。
ぎゅっと目を閉じ、ひたすらに声を押し殺して悶える少年とは対照的に、熱く蕩けたため息を全く隠そうともしない春歌。むしろ、少年を煽り立てるかのように、より一層ボルテージを高めた。
「はぁ、ああぁっ……」
春歌の秘裂が急速に熟れ、じゅくじゅくと潤んでいく。
兄を想ってひとり眠れぬ夜には、毛布を股に挟み込んで自慰に耽ることもあった。逞しい男の身体を想像しながらも、埋めた毛布から漂うのは女の、自分の匂いだけだった。
しかし、今は違う。
今組み敷いているのは、紛れもない本物の身体だった。まだ薄い胸板はそれでも欲望に熱く漲り、若い男の臭いが絶え間なく立ち昇る。ずっと恋焦がれていた、男の身体。
「あぁ、兄君さま……兄君さまぁっ……」
春歌は湧き上がる感情に動かされるまま、腰を前後に揺すって悦びを露わにした。充血した土手が腹筋の微かな凹凸に押し潰されてたちまちに決壊する。あふれ出る粘液がショーツに滲み、少年の下腹をてらてらと染めた。
と、不意に春歌の律動が止まる。
大きく反り返ったペニスが春歌のお尻を突付いていた。先端は熱く潤み、陶磁器を思わせる柔肌をじりじりと焦がしてゆく。
「お、お姉さぁん……」
甘く拗ねたように哀願する少年の声。幼さを残した顔立ちが媚の色を映している。春歌は唇の端を吊り上げ、満足げに笑った。
「――欲しいのですか?」
少年の顔がパッと輝く。しかし、春歌は眉をわずかに顰めて見下ろすばかり。
「ならば、お言いなさい」
「えっ?」
少年の笑顔が凍りつく。春歌の表情は変わらない。
「欲しいなら欲しいと、ちゃんと言うのです。そして、最後は自分の意思で決断なさい」
先の痴態が嘘のような豹変ぶりに、少年は戸惑いを隠し切れない。お気に入りのおもちゃを遥か頭上に取り上げられ、為す術もなくただ追うばかり目。
「ほ、欲しいです。お姉さんの……ぼく、欲しいぃ……」
「想い人を、裏切ってでも?」
何気なく放たれた一言に、少年の顔がくしゃくしゃに歪んだ。
「それは……」
少年はおどおどと春歌を見上げる。何が春歌の機嫌を損ねたのかと、二つの瞳が怯えていた。
だが、春歌はさらに突き放す。
「ご自分でお決めなさい。しかし、所詮は一夜限りの出来事。あなたが口をつぐめばそれで済むだけの話です」
春歌は少年の手を取り、自分の胸へと導いた。ずぶりと埋没する乳肉の柔らかさに、少年の目が大きく見開かれる。
「――感じますか、ワタクシを」
少年は訳も分からず、ただ頷き返す。
「何もせず、時の流れに全てを委ねるのも一つのやさしさです。しかし、そこを敢えて決断し、引導を渡すのもまたやさしさなのです。この先ずっと悲しく辛い思いをさせるよりは、いっそのこと、止めを刺してあげたほうが――」
「ずるい……ずるいよ、こんなの……」
少年は泣き笑いの顔で春歌をなじった。
「これで、こんなので……途中でやめられるハズ、ないよ……」
宙を虚ろに漂う視線が、彼の内面を物語っている。
「わかっていますわ。でも、最後は自分で決断なさい。今ならまだ、引き返せます。ワタクシも、後を追いませんから……」
そう言いながらも、春歌は確信していた。彼が欲望に折れてしまうと。そして、それを期待していた。
兄と結ばれたいという願望と、兄はこんなに弱くないという幻想とが、春歌の内面で激しくせめぎ合う。
だからこそ、彼に委ねるのだ。
春歌は上体を折り曲げて被さり、
「好きにして、いいのですよ」
熱く潤んだ吐息を武器に、必殺の一撃を放った。
春歌の下で瑞々しい肢体がぴくんと跳ねる。
草食獣のつぶらな瞳が、肉食のそれへと瞬時に変貌した。少年の手がたちまちにブラウスを引きちぎる。
ボタンの弾け飛ぶ音と共に出現する脂肪の塊。その質量感に気圧されたように息を飲む少年だったが、見せた躊躇いは一瞬だった。
直後、春歌の背中に回る少年の両手。捻挫した手首を庇う様子もなく、春歌の双球を解放しようとまさぐる手はたどたどしくも激しい。引っかき傷ばかりが増えていく。
「あぁ、早く……早くぅ……」
うわ言のように呟き続ける少年。その想いは、春歌も同じだった。
「ほら、こうするのです」
春歌はたまらず彼の手を取り、ホック部分の両端を掴ませた。その手を内側へ滑らせた途端、白い巨肉が雪崩を打って少年の顔に襲い掛かった。皮膚から直接染み透る熱さに全身がじりじりと疼く。
押し寄せる焦燥感をひた隠し、春歌はあくまで年長者の仮面を外さない。
「――外し方、覚えておきなさいね」
だが、餓える獣と化した少年に言葉など届かない。背中に回したままの腕で春歌をがっちりと抱き締め、そのまま横転して上下を入れ替えた。
「な、何をっ……!」
返事の代わりに、はふぅっ、はふぅっという荒い息が胸元をねぶる。柔肉に鼻面をぐいぐい押し付け、ただ乱暴に揉みしだくばかりの若い愛撫。痛みに顔を顰めながら頭を抱え込む春歌だったが、それしきで大人しくなる少年ではなかった。
「そっ、そんなにがっつくものでは――」
春歌は、自分の見通しが少々甘かったことを知った。焦らし過ぎたのが悪かったのだろうか。それとも、『好きにしていい』の一言が効き過ぎたのだろうか。
「おっぱいぃ……お姉さんのおっぱい、やわらかい、やわらかいよぉっ……!」
理性の檻から解き放たれた若き野獣は、もはや留まるところを知らない。
欲望の更なる開放を願い、本能に従い、全身を使い、女を求める。大きく開いた口で息をし、がくがくと腰を振り続けるさまは、初めて盛りに入った若い雄犬のよう。春歌はふと、ミカエルのことを思い出した。飼い主の鞠絵に殉じ、ついぞ子を残すことのなかった哀れな犬。鞠絵をかばってトラックに轢かれた彼は下半身不随になり、ボランティアの元で余生を過ごしているという。――彼は本当に幸せだったのだろうか。自らの生きた証と切り離された彼は、今なにを思って生きているのだろう。
とりとめのない思考に、全身を走る快感が割り込む。
「あぁん! ひぁっ、あっ、ひゃうぅっ!」
灼熱の矛先がショーツ越しに女陰を擦り上げ、陰核を弾いた。クロッチ部分は両側から淫液に犯されて黒く濡れそぼり、身じろぎの度にぐちゅぐちゅと官能的なノイズを発する。
「ああぁっ、あぁ、兄君、さまぁ……あぁん! ふあぁっ、そぉ、こぉっ! おぉ、おおぉっ……!」
年長面をかなぐり捨てた春歌の嬌声に、少年のギアが一段上がった。ゆで卵のような無毛の顎から汗が滴り落ちる。
「ぼっ、ぼく……もう、出ちゃうぅ……!」
「まだ!」
春歌は少年の肩を掴んで上体を浮かせると、縮めた足を懐に潜り込ませ、一気に伸ばして蹴り飛ばした。苦悶に歪んだ顔がぐんと遠のき、壁にぶつかって止まった。つま先がみぞおちに入ったのか、少年は身体を折り曲げて何度も咳き込んでいる。
「まだ……果てるには、早過ぎますわ」
けほっと小さく咳をし、少年はよろよろと立ち上がる。弱った本人とは裏腹に、股間にそびえる凶器はさらにいきり立っていた。
「お、お姉さん……ぼく、ぼくぅ……」
刀身はかつてないほどに反り返って、脈動の度に腹筋をぴたんぴたんと叩く。
「ガマンできない……早く、早く出したい。お姉さんのこと、もっと汚したい……」
露骨な求めに春歌の中に巣食う女が疼く。とっさにこう叫んでいた。
「もっと……もっとおっしゃって! ワタクシをどうしたいのですか、兄君さま。……さあ、もっと!」
「出したい、びちょびちょにしたい……おっぱいに、ぼくの、いっぱい」
「何をですか?」
「ぼっ、ぼくの……せ、せい、えき……」
小さく目立たない喉仏がひくっと痙攣した。
「どこに? ……胸だけで、よろしいのですか」
小声で付け加えると、春歌は横たわったままでM字状に足を開き、女を露わにした。濡れて貼りついたショーツにはくっきりと裂け目が浮かび、その上に幾筋もの線が走っている。そこは少年が陰茎を滑らせ、擦った場所。先走りの汁とはよく言ったものだ。
「う……あぁ、あぁっ……」
屈んで身構えた少年は、びくびくと暴れるペニスの根元を掴んで強引に引き下げ、狙いを定める。我慢の限界はすぐそこにまで来ているはずだが、今はどうにかこらえている。あの一蹴りが、如実に効いていた。
「――ここは、よろしいのですか?」
春歌の問いに、少年はがくがくと前後に首を揺する。
「どちらですか? 欲しい? 欲しくない?」
「ほっ、欲しいぃ……」
「なら、言葉でおっしゃって。……ワタクシのどこに?」
「おっ、おマ○コ……マ○コに、挿れたい……」
兄に似た顔から飛び出た淫語に、春歌の理性が融けた。奥底がびくびくと痙攣し、どっとあふれ出た淫液が新たな染みを作った。
「もっと、最後までちゃんとおっしゃって、兄君さま! ワタクシを……春歌を、どうされたいのですか?」
「お、マ○コに……お姉さんの、おマ○コに――」
「春歌! 春歌ちゃんと呼んで!」
叱られ、一瞬怯む少年だが、それしきで縮こまるペニスではない。むしろ、怒声を新たな刺激へと変えてさらに激しく脈打つ。
「春歌、ちゃんのおマ○コに、ぼくの……おちんちん、挿れたい……」
「挿れるだけ? 違うでしょう! ……さあ、挿れた後はどうするのです?」
春歌は厳しかった。なぜなら、春歌が真に欲しているのは兄との交わりだけ。しかし、それを解せぬ少年にとっては、ただ羞恥にまみれる一方だった。
「ゆ、許して……もう、こんなの……」
少年は今にも泣きそうな顔でいやいやをした。春歌の瞳が怒りに燃え上がるが、次の瞬間、すうっと糸のように細められる。
「許して欲しいですって? ふざけるのも大概になさい。あなたは決断したのですよ? もう引き返せないのです」
「でも……でも、ぼくは、お姉さんのお兄さんなんかじゃない」
少年の腰がさらに折れ曲がり、今にも飛び掛りそうな姿勢へと変化する。
「――あくまで逆らうおつもりですか」
胸の谷間から覗き見える彼の顔はひどく険しい。春歌はつと目を伏せたかと思うと破顔一笑してこう告げる。
「なら、仕方がありませんわね。許して差し上げますわ。その代わり、ワタクシは大声で助けを呼びます。それでよろしいですよね?」
「えっ?」
きょとんとする少年に対し、春歌は雌猫のようににまりと笑う。
「おわかりになりませんか? 今この部屋に誰かが足を踏み入れたとしたら、あなたはどうなると思います? あなたは男性自身を丸出し。そしてワタクシは、あなたにブラウスを破かれて」
少年の顔が一瞬で青ざめた。全身ががくがくとわななく。快感にではなく、恐怖に。
「ず、ずるいよ。そんなの、ずるい……」
「どのみち、もう引き返せはしないのです。あなたも――」
続く春歌の言葉はごく小さかった。
「そして、ワタクシも」
春歌はおもむろにショーツへ手を掛け、焦らすようにじりじりとずり下げる。
若い身体は正直だった。苦悩にもがく心をよそに、ペニスはたちまち息を吹き返す。
「あぁ、あああぁぁ……」
低く、這うような呻き。後悔に漏らす嗚咽か、獲物を前に悦ぶ唸りか。さながらそれは、心と体とが鍔迫り合いをしているかのようだった。
春歌はショーツを太ももまで一気に引き下げると、両足を艶かしく踊らせながら湿った布切れを脱いでつま先に掛け、少年の足元へ投げ捨てた。べちゃっ、という淫らな水音が部屋の空気を一段と蕩けさせる。
春歌は勿体つけるように一度足を閉じると、再びM字に開き直した。露に濡れた茂みの下に、ぷっくりと充血し切った丘が続く。その真ん中にはねとねと光る肉の襞と、それに飾られた裂け目が侵入者を待ち構え、大口を開けていた。春歌が息継ぐ度に、裂け目からはじゅくじゅくと蜜がにじみ出る。花が羽虫たちを誘い寄せるように、甘い匂いを漂わせて。
ようやくその全てを曝け出した春歌に、少年の興奮は最高潮に達したようだ。脈動は上も下もはっきりと見え、新たな空気を求めてぱくぱくと口が動いている。充血してぎらつく目が、とめどなく恥液を溢れさす縦割れへと一心に注がれていた。
春歌は上目に少年の様子を確かめると、両手でそっと秘所を押し隠した。
「……お、お姉さん」
「春歌」
熟した身体と裏腹の硬い声に、少年が怯えの色を見せる。我慢の限界は目に見えて近いというのに、少年は飼い犬のように忠実だ。
「春歌、ちゃん……」
擦れた復唱を受け、春歌が猫なで声で応える。
「わかっているでしょう? ……さあ、おっしゃって、兄君さま。ワタクシが、春歌が欲しいと」
「ほっ、欲しいっ! 春歌ちゃんの身体が欲しい……ぼくのおチンチン、春歌ちゃんのおマ○コに突っ込みたいぃっ!」
最後はほとんど悲鳴に近かった。
顔を引き攣らせながら肩を上下する少年の――兄の姿に、春歌はにっこりと聖母の笑みを浮かべた。
「ええ、兄君さま。ワタクシに、こんなはしたない妹に、罰をお与えくださいまし」
殊勝な言葉は、しかし、ただの言い訳でしかなかった。
春歌は自らの指で割れ目を押し開き、目の前の男を誘った。久しぶりに外気へ触れた粘膜が女の臭いを立ち昇らせる。羞恥心は微塵もない。ただ、嬉しかった。精悍だった兄の顔が、涎を垂れ流しにしてまで自分を求めていることを。
「あ、兄君さまっ……!」
「うあっ、あぁ、ああああぁっ!」
雄叫びを上げながら、若き野獣が猛然と襲い掛かった。勢いのあまり、春歌の身体はシーツの上を滑り、壁に押し込まれる。だが、少年の目に春歌の苦悶の表情は映らない。ただ、喰らうべき獲物だけがそこにあった。
雌の匂いと味を確かめようと、荒々しく這い回る顔。やわらかな肉を千切り取らんと突き立てられた爪が、春歌の白い肌に赤い痕を作っていく。
しかし、二人が待ち望む肝心のものは未だ邂逅を果たしていない。逸るあまりに勃ち過ぎた肉茎は少年の下腹にぴたりとくっつき、何度腰を振っても空しく空を切るばかり。お互いの粘膜がこすれては離れる度、切ないため息が重なる。
「早く、早くぅ……はぁっ、あぁ、兄君さまぁ……」
「で、でも、ぼくぅ、どうしたら……」
春歌の胸に熱い雫が降り掛かる。少年は泣いていた。
「入りたい、早くぅ入りたいのに……ああぁ、どうして……どうしてぇ……」
悔し涙を振り撒きながら、それでも少年は腰を振ることを止めようとしない。春歌は弄られて震える手を伸ばし、彼の頭を自分の胸にそっと抱き込んだ。
「どうか、おぉ、落ち着きになって、兄君さまぁ。急いては事をぉぉっ、しっ、仕損じますぅっ……!」
なおも、まな板の鯉のように暴れていた少年だったが、ゆるゆるとなだめるような春歌の手に少しずつ落ち着きを取り戻す。
「は、春歌ちゃん……ぼっ、ぼく、どうしたら……」
泣き腫らした顔が恥も外聞もなく縋り付く。無防備極まりない姿に、春歌は目を細めて微笑んだ。
「あらあら、兄君さまったら。そんな情けない声をお出しにならなくても。さぁ、ここはワタクシにお任せくださいまし」
赤子をあやすような春歌の囁きに、少年は素直に頷く。春歌は我知らず、喉を鳴らしていた。
春歌は起こした上体を壁に預け、大きく足を広げて彼を迎え撃つ。
「わかるでしょう? ここに、兄君さまのものを」
「でも、こんなに反ってて――」
「自分の手で下げて、狙いを……そう、そのまま……」
ぐいっと下げられた赤い穂先がにじり寄ってくる。春歌は瞬きをも忘れ、秘裂にあてがわれる様をじっと見つめていた。
「あぁ、んふぅっ!」
先端で押し広げられた肉襞の中から愛液がこぼれ落ち、尻の窄まりをねっとりとなぞる。春歌は目を閉じてその瞬間を待ったが、なぜか少年は動こうとしない。
瞼を開けると、すぐ目の前に少年の顔があった。小刻みな震えが、重ねた肌と粘膜から直に伝わってくる。お互いのとば口は触れたまま。
ここまで来て、まだ迷っているなんて。
「羨ましい、ですわ……」
春歌のかすかな呟きに、少年は少し眉を顰める。
「ワタクシも……そこまで、想われてみたい」
上気した少年の顔がさらに赤くなった。顔を俯かせ、身体の底から搾り出すように応える。
「――ごめん、なさい」
「いいの、いいのよ。謝らなくても」
豊かな胸で抱き締め、やんわりとなだめる春歌。しかし、それと同じくして高く持ち上げられた両足は、今振り下ろされんと狙いを定める蟷螂の斧そのものだった。
「だけど、今は――」
春歌は唇の端を吊り上げ、艶然と笑った。
「今は、ワタクシのもの!」
そう言うなり、春歌の手足が少年の身体へ絡み付いた。春歌の全身にやわらかく埋まった少年は、取り込むようにじっとりと吸い付く肌に促されるまま腰を突き出した。
焼けるように熱い物を感じ取った瞬間、激痛が春歌を刺し貫いた。
「あ、ぁぐぅっ! あっ、ああぁ、いっ、ぎいぃっ……さ、ああっ!」
喪失の痛みに春歌は少年を力強く抱き寄せた。細く白い背中に新たな爪痕が刻み込まれる。しかし、少年がそれを気にする様子もない。理性を吹き飛ばすだけの快感に身体を支配されていたからだ。
「あぁ、あはあぁぁっ……あぁ、熱ぅい、熱いよぉっ!」
入口と出口と、二つの肉の門が春歌の中で激しく競り合う。熱塊同士が触れては離れする度に目の前で火花が飛び散った。若さに任せて全身を叩きつける運動は春歌の豊乳に遮られて跳ね返され、弾かれた肢体は反動でさらに加速する。
「はぁっ! あっ! あっ! ああ、あはあぅっ! うぅ、うっ! んふううっ!」
ミシンを思わせる律動が春歌の意識に続々と楔を打ち込む。あふれ出す想いが、突き刺さる痛みを甘い疼きへと作り変えて行く。内なる求めに応じ、春歌の肉襞が少年をぎゅうっと締め上げた。その途端、少年の上体が大きく仰け反り、春歌の肉孔が一段と押し広がる。
「うくぅぅっ! うあ、あくうぅっ!」
「あがあっ! あ! は、あああぁぁっ……!」
春歌の悲鳴に少年の叫びが重なった。
びくん、びくんという蠢きに呼応して、白い迸りが春歌の秘門を力強く叩く。惚けたように緩んだ顔とは対照的に、少年の剛直は剛直のままで春歌を満たし続ける。力強い収縮が内壁をねっとりとこすり上げた。
「あぁ、あはあぁ……あぁ、兄君さまが、こんなにもいっぱい……」
壊れた蛇口のようにいつまでもいつまでも白濁を流し続ける少年。わずかに緩んだ繋がりから伝わり落ちる一筋を感じた春歌は、離すまいとばかりに粘膜で抱き締めた。
少年は一際強い一撃を最後に放ち、春歌の胸にぐったりと倒れ掛かった。瑞々しく豊かな胸と腕がいとおしげに抱き止める。
言葉を忘れ、熱気を荒く吐き続けるだけの彼にうっすらと微笑み掛ける春歌。
「ワタクシの、たくましい兄君さま……」
胸の谷間に埋まった口が動いて何事かを呟いたのはそのときだった。それは誰かの名前のように、春歌には聞こえた。
二人の思いが、徐々に緩む隙間からごぽっと音を立てて流れ出し、シーツに淫らな模様を染め出した。
*
エレベーターの狭い箱に、一対の雌雄の臭いが満ち溢れていた。
シャワーも浴びぬままに着替えた二人は軽く手を繋ぎ、互いにもたれ掛かるように寄り添っている。そして何も言わず、階数表示の動くさまをただ見つめていた。モーターの唸り以外に音はない。何かを飲み込み、押し殺すように、二人はじっと息を詰めていた。
それもやがて、場違いなほどに軽いチャイムに掻き消され、スチールの扉が滑らかに開く。
少年は躊躇うように春歌と外とを見比べるばかりで動かない。少年は手を離さなかった。春歌も手を離さなかった。
そうこうしているうちに扉が閉まり掛け、春歌が無言でそれを押し止める。
そんなことを何度か繰り返すうち、少年がおずおずと口を開いた。
「あの、春歌……さん」
少年の握る手にぐっと力が込められる。
「また、来ても……いい、ですか?」
手の熱さとは裏腹に、上目で様子を窺う少年はひどく気弱で頼りなく見えた。見捨てないで、を口癖にしていた小さな妹を思い出し、春歌は薄く笑みを浮かべた。
それを了承と受け取ったのか、少年の目が瞬時に輝きを取り戻す。
「き、来てもいいんですよね? ……あの、代わりになれるかわからないけど、でも、ぼく、頑張るから……だから!」
少年は振り解いた手を春歌の腰に巻きつけ、ぐっと力強く抱き寄せた。たちまちに春歌の胸へ埋没する少年の頭。マーキングでもするように、ぐいぐいと頬をすり寄せる。
「あっ、はあぁん……そっ、そんなのぉ……!」
秘め事の余韻を残す肢体は、荒々しく強引な愛撫にも過敏に反応した。狭い密室に女の臭いが一段と高まる。
「ねえ、いいでしょ? もっと……ぼく、もっともっとしたいんだ。お姉さんだってそうなんでしょ? それに、まだイってない……よね? 今度は頑張って、きっとイかせてあげるから」
欲望に満ち溢れた言葉と吐息が春歌の胸元をじっとりとねぶった。強く押し当てられた股間が硬く、そして熱い。欲望がそこに漲っていた。
春歌はこのとき初めて、少年に対して恐怖を抱いた。半ば狂乱の態で春歌の身体にしがみ付く少年。兄に似たその顔に嵌っていたのは、執拗に雌を付け狙う獣の目だった。
何か途方もない過ちを犯してしまったという後悔の念が、春歌の全身を押し包む。
「いいえ。それは駄目です」
「どうして? ねえ、どうして!」
引き剥がす春歌の手に、少年は必死で喰らい付いた。
「あなたでは、あの方の代わりになれないから――」
「そんなの関係ないよ! それならどうしてぼくのこと連れ込んだの? 誰でもよかったんでしょ?」
春歌はハッと頭を上げ、目の前の顔を見つめた。春歌を責め苛む形に歪む顔がそこにあった。
そうかもしれない。本当は誰でもよかったのかもしれない。そしてこの子は兄君さまではない。なぜなら、兄君さまは決してこんなお顔をなさらないから。
「――あなたでは、ダメなのです」
春歌はそうきっぱりと告げ、何かを言い出そうと動く少年の口を自らの唇で塞いだ。ひび割れた唇の隙間から舌先を差し入れると、少年の身体がくたくたと崩れ落ちそうになる。春歌は口付けたままで少年の身体を強引に押し込んだ。圧倒されて後ずさる少年は、鋼鉄の扉へ磔になる。
唇を離すと、長い長いため息が漏れて出た。少年の目が「どうして?」と言いたげに春歌を見据える。
無言の問いに、春歌はかぶりを振って応えた。
「あなたが本当に想っておられる方は、ワタクシのようになさらないはず。力づくで奪うような真似はなさらないはず。そうでしょう?」
春歌は自嘲めいた笑いを浮かべ、開ボタンに手を伸ばした。支えを失った少年の身体が空を泳ぎ、エントランスのビニルタイルへ墜落した。
春歌はボタンに手を添えたままで学生服が身じろぎする様を眺めていたが、無事なのを見て取ると即座にボタンを押した。
「待って、春歌――」
驚きを浮かべた顔が鋼鉄の隙間に消えた。モーターが徐々にボルテージを上げ、二人を静かに引き離す。
あの子はきっとまた来る。差し出されるミルクの味を知った捨て猫のように、名前も知らないあの子はきっとまたここへ帰ってくる。
浮き上がる身体とは反対に、春歌の心は新たな予兆を重石にどこまでも沈んで行く。
春歌の足元に、少年の名残りが滴り落ちた。
Fin.