〜 亞里亞の場合 〜
今日は、亞里亞のおたんじょうびでした!
白雪ちゃんの作ってくれたお料理やケーキをいっぱい食べて、みんなからプレゼントをもらって、ええと、それからそれから……とにかく、いっぱい楽しかったです。兄やからのプレゼントはウサギさんの大きなぬいぐるみで、首にはやっぱり大きなリボンが結んであります。とってもキレイな青色で、ちょっと動いただけでキラキラ光るの。シルクのオーガンジでもなくてグログランでもなくて、亞里亞の知らない、ふしぎなテープで作られてるみたい。
そうやって亞里亞がリボンばかり見ていたら、兄やが近付いてきて「亞里亞はリボンの方が好きなのかな」って言いました。
「うん。亞里亞はリボンが好きなの」
「そのウサギさんよりも?」
亞里亞はちょっと考えて「両方とも好き」って答えました。
そうしたら兄やはにこにこと笑って、
「そう言うと思って、実はもうひとつプレゼントがあるんだ」
「ほんとうに?」
大きな声を出してしまったので、兄やは慌てた顔をしました。
「亞里亞にだけの特別なプレゼントなんだ。だから、他の子には絶対にないしょだよ」
「うん。姉やにも言いません」
「じゃあ、兄やと約束しよう」
亞里亞と指きりした兄やは、誰にも見つからないようにそうっとリビングを出ていきました。亞里亞も兄やのまねをして、ウサギさんみたいにそうっと静かにお部屋を出ました。パーティーのあとのお茶の時間だったので、だれも亞里亞たちに気づきませんでした。
兄やは亞里亞の手を引いて階段まで連れてきてくれました。そして、階段の三段目に亞里亞を座らせて、兄やは亞里亞の足元にしゃがみました。
「亞里亞、右足を出してごらん」
どうしてなのかわからなかったけど、兄やがにこにこしながら言うので、亞里亞は兄やの言うとおりに足を出しました。ドレスをちょっとだけ引いて、足首が出るぐらいまで。
すると兄やは、今度は赤いリボンをポケットから出して、亞里亞の足首に巻いてくれました。
「ほら、これがもうひとつのプレゼントだよ」
赤いリボンは、ウサギさんの青いリボンとおそろいになっていてとってもキレイ。しばらくの間、足をのばしたりちぢめたりして動かして、亞里亞はリボンがキラキラ光るのを見ていました。兄やもお星さまをながめるみたいにしてじっと亞里亞のつま先を見つめてくれました。
だけど、亞里亞はなんだか急に悲しくなってしまって、足を動かすのをやめました。
「どうしたの? リボンは気に入らなかった?」
「ううん、亞里亞はおリボンが大好きです。でも――」
「でも……どうしたの?」
亞里亞は兄やにぎゅっと抱きつきました。
「亞里亞は、兄やの妹なのよ。これからもずうっと、亞里亞といっしょに暮らすの。だから、亞里亞をどこにもやらないで!」
「急にどうしたんだい? 亞里亞だけじゃなくて、みんなともずっと一緒に暮らし続けるんだよ」
兄やはなかなか気づいてくれなくて、亞里亞はちょっぴり泣いてしまいそうになりました……くすん。
「じゃあ、どうして亞里亞にリボンをつけたの?」
「えっ? そ、それは……」
兄やは、ママンがどこにいるのか聞いたときのじいやみたいにお口をもごもごさせるので、それでもっと悲しくなりました。
「リボンをつけるのは、プレゼントって決まってるの。そして、プレゼントは誰かにあげるって決まってるの。兄やは亞里亞をプレゼントにして、誰かにあげちゃうの? 亞里亞、そんなのイヤ……」
「ああ、そうか。ごめんごめん。そういう意味じゃないんだよ」
兄やは亞里亞をぎゅっと抱いて、頭をなでてくれました。
「もちろん、亞里亞は誰にも渡さないよ。こんなに可愛い妹を、誰が簡単に手放すと思うんだい?」
「でも、亞里亞におリボンしたのは――」
「それはね、兄やにとって亞里亞がとても大切だからだよ」
兄やはいったん亞里亞の身体を離して、ハンカチで涙をふいてくれました。
「亞里亞はそのウサギさんのぬいぐるみ、他の誰かにあげてもいいと思う?」
「ううん、そんなのイヤ。これは亞里亞のウサギさんだから、姉やにもあげません」
「うん、そうだよね。それじゃあ、ウサギさんの首に巻いてるのは何かわかるかな」
「……あっ!」
わかってしまった亞里亞はうれしくなって、また兄やに抱きつきました。
「亞里亞は兄やのたからものだから、だから、亞里亞にリボンを巻いてくれたのね」
兄やもまた亞里亞をぎゅってして、頭をなでてくれました。
「だから、もう一度つま先を見せてくれるかな。亞里亞は宝物だから、もっといっぱい見ていたいんだ」
「はい、わかりました」
亞里亞はまた階段の三段目に座りなおして、そっと足を差し出しました。床に座った兄やは、まるで美術の先生が壷や彫像を見るときのように、ぐるぐると首を回してあちこちから亞里亞の足をながめます。兄やの目がくすぐったくて足を戻そうとすると、兄やの顔も同じだけついてきました。なんだか、エサをおあずけされているときのミカエルみたいです。
「兄やはお腹がすいたの?」
「だって、おいしそうに見えるからね。白くてやわらかくて、まるでマシュマロみたい」
「でも、亞里亞の足は食べられないのよ?」
「だけど、さっき食べてたのは七面鳥の足だよ」
そう言って亞里亞の足を指でつんつんするので、亞里亞はあわててスカートの中に足を戻します。兄やはすごく残念そうな顔をしたけど、でも、さっきの兄やの目は本当に食べてしまいそうな感じがしました。
「亞里亞の足、食べちゃイヤ。だって、足がなくなってしまったらどうやって歩けばいいの?」
「その時は僕が亞里亞の足になるよ。亞里亞をだっこして、どこへでも行ってあげるよ」
「ほんとうに?」
亞里亞がもう一度足を出そうと思ったそのとき、リビングのほうから兄やを呼ぶ声がしました。
「ごめん、もう行かなきゃ。また後で見せてね」
「あ、兄や――」
亞里亞が止めるよりも早く、兄やはあわててリビングに戻っていきました。
亞里亞のおたんじょうびなのに、兄やは今日もみんなの兄やです。今日だけは、亞里亞だけの兄やでいてほしかったのに……くすん。
でも、亞里亞はすぐにとてもいいことを思いつきました。兄やを亞里亞だけのものにできる、とてもすてきな方法。これならきっと、みんなだれも文句を言わないはずです。
亞里亞はリビングまで戻って、兄やを探しました。そして兄やの前まで行ってドレスのすそを引くと、リボンのついたほうの足をつき出してこう言いました。
「兄や。亞里亞の足を食べてください」
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